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「いや、――わしはそんなこたあ嫌ひだ」
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
「ほう、クレーといふのはカワラケのことかね」
それは盛子だつた。きりつとした割烹着の姿は彼女の伸びやかな身体の特長をよく現はしていた。
「今日は士曜日で、半休だからね」
今の家へは、温泉がぬるいというのを承知の上で越してきた。
この時、練吉が又小耳にはさんで訊き返した。が、明かにそれはさつきの小耳訊きとは様子がちがつていた。殆ど一人で盃を傾けていたせいもあるが、つい今まで沈んでいた練吉は僅かの間に一足とびに深い酔の中に入りこんでいた。
男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。
二人は岸に着いた。
房一は彼等の姿が消えてからもしばらくの間、ぼんやり元の椅子に腰をかけて、たつた今彼等がそこを曲つて行つた入口の土塀、それで一所だけ区切られた表の道路、その向ふに稍高手になつた畑地、といつたやうな物を漠然と眺めていた。
「それをよこしたまへ。二足なんていらんよ」
「いや」と、喜作は相変らずきつぱりと、煩うるさがりもせず答へた。
遠くの方で誰かが呼んでいた。