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房一はいかにもそれがやり切れない、と云つた風に吐き出すやうに云つた。つゞけて、
二人は岸に着いた。
「君は昨日その九州から来た連中を赤山へ案内して行つたちふぢやないか」
ふたたび相手の鞄にちらりと目をやりながら、練吉は半ば信じない風に訊いた。
茶器を持つてこちらへ近づきながら、盛子自身も何となく眩しいやうな目つきをしていた。それは彼女に溢れている若さだつた。その声で想像させたやうな細身ではなく、むしろ中肉だつたが、背が高いので一種の優しみが現れていた。
手前の方では音もなく縞をつくつて速く流れている河は、ずつと先の方で細い、ちらちらした、絶え間なく動く縮緬皺ちりめんじわとなつて見え、そこに素晴しい高さの岩がによつきりと宛あたかも河を受とめた工合に立つていた。その蔭にあたる河縁かはぶちには急ごしらへのバラック建が点々としていた。それは工夫小屋だつた。鉄道工事がつい二三ヶ月前からはじまつたのである。
房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。
「まだつて、はじまつたばかりですよ」
「痛むか?」
犬が何を見つけたのか、その時さつと身を躍らして傍の草地にとびこんだ。二三度そこらをぐるぐると廻ると、鼻の先に真新しい土をくつつけてまた房一の傍にもどつて来た。
「おい、今高間君が来ていたんだよ」
そこへ房一が帰つて来たのだ。盛子は横坐りの所を見られまいとして慌てて立上つた。
房一は酒が不得手だつた。ところが、相沢も家業に似合はず呑めない口と見えて、二人の間には手もつけないまゝで生温くなつた銚子が二三本も置かれていた。こゝでも房一はもう会ふ人ごとに聞かれてうんざりしている医者となるまでの経歴を、相沢の問ひに答へてぽつりぽつり話さねばならなかつた。